大判例

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前橋地方裁判所 昭和27年(行)3号 判決

原告 島田倭

被告 群馬県選挙管理委員会

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は「原告が昭和三十年五月一日までを任期とする群馬県議会議員であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、原告は昭和二十六年四月三十日施行された群馬県議会議員選挙に際し同県群馬郡より立候補し、一万八百四十七票の得票で最高点となり、同年五月二日の選挙会で当選と決定され、同日被告より当選人として告示されると共に、その旨の告知と当選証書の交付を受け、爾来群馬県議会議員として又県議会の林務及び農務の各常任委員、邑楽水害対策特別委員として昭和二十七年八月三十日に至るまで活躍して来た。ところが原告は是より先昭和二十五年六月四日施行された参議院議員選挙に際し、全国区議員として立候補した訴外岩沢忠恭のためにした選挙運動が選挙違反罪に問われ、昭和二十五年九月二十九日高崎簡易裁判所において公職選挙法第百四十二条第一項、第二百四十三条第三号違反として略式命令をもつて罰金五千円に処せられ、同年十月十六日その裁判は確定し、同法第十一条、第二百五十二条によりその時から五年間選挙権と被選挙権を有しないことになつていたのである。しかし原告は従来実業に没頭しきつていたため法律に暗く、又略式命令には選挙権及び被選挙権を喪失する旨の記載がないので、右確定後も選挙権及び被選挙権は当然保有しているものと誤信して疑わず、且つ居村長野村選挙管理委員会備付の選挙人名簿にも有権者として登載されていたゝめ前記のように県議会議員選挙に立候補し当選したのである。しかも、他の候補者、選挙人も原告の選挙権、被選挙権の欠缺を知らなかつたため、原告の当選に関係して公職選挙法所定の当選の効力又は選挙の効力に関する争訟の提起をみることなく、又行政事件訴訟特例法による当選告示の取消変更を求める訴を提起せられることなくして経過した。その後昭和二十七年四月二十八日大赦令が施行され、原告の右罰金刑の言渡は効力を失つたのであるが、大赦令の実施に当り高崎区検察庁で原告が右のとおり罰金刑に処せられ選挙権及び被選挙権を有しない者であることが発見され、之が新聞紙に報道されたため、同年八月二十八日被告委員会委員長は原告に対し、原告が前記の略式命令の確定により公職選挙法第二百五十二条、地方自治法第百二十七条第一項の適用により議員就職の時においてその職を失う旨を確認し、直ちにその旨を群馬県議会議長に通告し、翌二十九日被告委員会の事後承認をうけ、右議長はこれにもとずいて同月三十日原告に右と同旨の通告をした。

しかし乍ら、以上の事実にもとずけば、右の確認並びに通告は誤つており、次のような理由によつて、原告は現に群馬県議会議員たる地位を有している。

一、本件において原告の議員としての地位は確定し、被告の見解、認定、その他の一方的行為によつて左右され得ない。即ち本件については公職選挙法第六十八条第一項第四号により原告に対する投票が無効であることを理由として同法第二百二条第二百三条の選挙の効力に関する規定、同法第二百六条第二百七条の当選の効力に関する規定及び行政事件訴訟特例法第二条第五条の規定が適用せられ、これら争訟によつてのみ原告の議員たる地位を失わしめることができるのであるが、前記の如くこれらの争訟は提起せられずして既に所定の提起期間が経過しているので、原告の議員たる地位は不動のものとなつたのである。

二、本件には地方自治法第百二十七条は適用にならない。府県制時代の古い行政判例は、前同条と同旨の府県制の規定について「当選の前後を問わず広く被選挙権を有せざる府県会議員に対する失職を規定したもの」と判決している。しかし、

(1)  公職選挙法第六十八条第一項第四号は「被選挙権のない公職の候補者の氏名を記載した」投票を無効としているから、選挙前に既に被選挙権を有していない場合には、この規定のみでまかなうべきである。

(2)  もし本件につき地方自治法第百二十七条の適用があり、これによつて、法律上当然失職するものとすると、既に議員たる地位にない者に対して更に公職選挙法や行政事件訴訟特例法による争訟をなしうると云う無意味な結果が生ずる。

(3)  選挙会が当選人と決定し、選挙管理委員会が当選と決定告示し更に当選証書を交付して議員たらしめた一連の行政行為の効力が何等の手続もなく当然失効することは法律的に考えられない。

(4)  公職選挙法や行政事件訴訟特例法は地方自治法よりも新らしく制定されているから、前者の適用ある本件のような場合には後者の適用は排除される。

したがつて、本件のように被選挙権がなくして当選し議員となつた者については地方自治法第百二十七条の適用はないものと結論せざるを得ない。

三、仮に本件につき地方自治法第百二十七条が適用され、しかも被選挙権の有無について議会の決定を要しないものとしても、「議員の職を失う」とするには議会或いは議長の「被選挙権を有しない」ことの認定が必要であり、その認定によつて失職の効力が生ずるのである。そして被選挙権を有するや否やの認定は認定当時を標準としてされなければならない。

(1)  もしそうでないとすると、本件の場合昭和二十六年五月二日より同二十七年八月三十日に至る間、原告が議員としてなした行為の効力に関する保証がないから、その行為が遡つて無効となる場合を生じ、議会の運営、第三者の保護等の上からみて甚だ不都合なことになる。

(2)  地方自治法第百二十八条は従前の規定が、同法第百二十七条の決定が確定するまでは議員たる職を失わない旨を定めていたのを改正して、これを削除しているが(旧府県制第三十七条特に同条末項、同制第三十四条末項参照)、これは右の第百二十七条の認定或いは決定によつて失職の効力を生ずるものとしたがためである。

(3)  地方自治法第百二十七条が「被選挙権を有しない者であるときは、その職を失う」と云う表現をしているのも、右のような認定によつて失職する旨を明かにしたものである。

本件においては前示のような認定はされていないし、又被告が原告の被選挙権を問題にした昭和二十七年八月二十八日当時において、原告は大赦により被選挙権を回復していたのであつて、右の認定はなしえなかつたのである。

四、原告は昭和二十七年四月二十八日大赦の恩典に浴している。恩赦法第三条は大赦の効力として「有罪の言渡を受けた者については、その言渡は効力を失う」と規定しているから、原告の受けた前記罰金刑そのものの効力は失わしめられ、最初から言渡がなかつたこととなり、公職選挙法第二百五十二条の適用も当初に遡つて排除され、従つて被選挙権の回復も当初に遡るものと解せられる。而して大赦の効力が遡及効を原則とする事は、刑の執行猶予の効力に関する刑法第二十七条の「ヽヽヽヽ刑の言渡はその効力を失う」という規定が遡及効を有するものと解釈せられていることと恩赦法が旧法たる恩赦令第三条第一号の「刑の言渡を受けたる者に付てはその言渡は将来に向つて効力を失う」旨の規定を改めて「将来に向つて」の言葉を削り、恩赦法第十一条で既成の効果に関する規定を挿入したことに徴して明かである。そして本件に同法第十一条が適用されないことは、被選挙権の停止が公職選挙法第二百五十二条にもとずく効果であつて、裁判自体の効果でないことから同条にいわゆる「既成の効果」でないと云えるし、又被告及び群馬県議会が昭和二十七年八月二十八日原告の被選挙権を問題にするまでの間、原告を議員として取扱つて来てをり失職と云う「既成の効果」は全く生じていないことから明白である。したがつて、原告は大赦を受けた結果被選挙権を喪失したことがなかつたことになるので、大赦のあつた後に原告は地方自治法第百二十七条を適用することができないのは当然である。

五、我が国の法制が民主主義を基幹とすることは言うまでもないことであつて、その国民主権の発動は選挙における投票と国民の審査の二つの形式によつてなされている。されば投票に現れた国民の意思はこの主権的性格を有するから、充分に尊重されなければならない。昭和二十六年に行われた群馬県議会議員選挙において原告に投ぜられた一万八百余票の投票は、この意味において、絶対に抹殺されてはならぬ。当選後に処刑されたものではなく、一年三ケ月の間無事に議員としての職務を果していた原告が、何等の手続を経ないで当然失職するというのは、ただに旧官僚的、独善的思想であるばかりでなく、一万八百余票を抹殺し去るの誤りを犯すものと言わねばならぬ。

以上の理由により原告は現に群馬県議会議員たるの地位にあり、この地位は特別の事態が発生しない限りその任期満了となる昭和三十年五月一日まで保持されるものであり、被告は原告がその地位を失つたと主張するのでその地位の確認を求めるため、本訴に及ぶと陳述した。

被告代表者は請求棄却の判決を求め、原告の主張事実中、原告が従来事業に没頭しきつていたため法律に暗く原告主張の県議会議員選挙当時自分に選挙権、被選挙権がないことを知らなかつたとの点は不知、その余の事実は全部認める。しかしながら原告の法律上の見解については被告は反対の意見をもつており、原告の議員たる職は、被告の行為によつて失われたものでないし、地方自治法第百二十七条により議員となると同時に当然失われたのである。従つて原告の請求は理由がない。なお、原告の失職を前提として、昭和二十七年九月二日選挙会において次点者訴外山田義博が繰上当選人と定められ、被告はその確定の手続を完了して、右山田が群馬県議会議員となつたものである、と陳述した。

三、理  由

先ず被告が本訴において当事者となりうる資格を有しているか否かについて考えると、地方自治法第百八十六条によれば、地方公共団体の選挙管理委員会は選挙に関する事務及びこれに関係のある事務を管理するものであつて、既に議会の議員たる者に対しその地位に影響を与うべき関係に立つことなく、同法第百二十六条、第百二十七条、第百三十四条、第百三十五条、第百三十七条に徴しても議員の地位は議会によつて規制されるものである。もつとも選挙管理委員会は議員に欠員が生じた場合において、繰上補充や補欠選挙に関する事務を取扱うことはあるけれども、この場合においても、公職選挙法第百十一条第一項第二号にしたがい議会議長から欠員の生じた旨の通知をうけてはじめてなしうるのであつて、右委員会が独自の判断で議会議員の欠員の有無を決することはできない。そして原告の主張によれば被告委員会委員長が昭和二十七年八月二十八日原告に対し、原告が議員たる職を失う旨を確認し、その旨を群馬県議会議長に通告し、翌二十九日被告委員会の事後承認をうけ、右議長が同月三十日原告に右と同旨の通告をしていることが窺われ、被告もこれを争わないけれども、元来右確認並びに通告は、それ自体何の法律的効果も持たないものであるから、このことをもつて被告に議員たる地位を確認させる必要が生じたものとはいえない。よつて本訴のように地方公共団体の議会の議員たる地位の確認を求める場合においては、原告は須くその議員の身分上の法律関係を規制する議会か実質的当事者たる地方公共団体を被告とすべきであつて選挙管理委員会を被告とすべきものではない。本訴被告は当事者たる適格を欠くものであるから原告の請求は既にこの点において棄却されなければならない。

しかし乍ら行政事件訴訟特例法第七条を準用するときは、原告に故意又は重大な過失のない限り、形式的当事者たる被告行政庁の変更が許されるものではあるが、仮に本訴において被告が正当な当事者に変更されたとしても原告の請求は認容できないのである。以下その理由についてのべる。

原告の主張事実は、原告が従来実業に没頭しきつたため法律に暗く昭和二十六年四月三十日施行の群馬県議会議員選挙当時選挙権及び被選挙権を当然保有しているものと誤信して疑わなかつたとの点を除いて、すべて被告の認めるところである。

右の争なき事実によれば、原告は前記選挙が施行せられた昭和二十六年四月三十日以前である昭和二十五年十月十六日から五年間被選挙権を有しないことになつていたのにかゝわらず、前記選挙において立候補し、最高点を得、当選人として告示され、爾来事実上群馬県議会議員として活躍していたところ、その後公職選挙法所定の選挙に関する争訟をなしうる期間経過後にして大赦令の発布せられた昭和二十七年四月二十八日頃に至り原告が右選挙当時被選挙権を有しなかつたことは一般に知れ渡つたと云うことになる。地方自治法第百二十七条第一項は議員が選挙の期日後に被選挙権を有しなくなつた場合に適用あること勿論であるが、被選挙権の喪失が選挙前に生じた本件の如き場合にも同規定の適用があるか否かについて検討してみると、公職選挙法、地方自治法を通覧して明かなように、被選挙権を有することは地方公共団体の議会の議員たりうべき最も重要な資格であつて、これらの法律はいやしくも被選挙権を有しないような者が議員となり又は議員たる地位にあることを極力避けることに努めているのみならず、地方自治法第百二十七条が「被選挙権を有しない者であるときは、その職を失う」と規定し、公職選挙法第九十八条、第九十九条のように「被選挙権を有しなくなつたとき」と云う表現を用いていないのであつて、これらの点から考えて被選挙権の喪失が選挙前に生じた場合においてもなお地方自治法第百二十七条第一項の適用によりその職を失うものと解するのが正当であり、原告が自ら被選挙権を有するものと信じていたか否かは問うところでない。而して右失職に関し議会又は議長の認定行為を必要とするものでないことは、法令にかゝる行為をすべきことを定めた規定なく又地方自治法第百二十七条が議会の決定によることから除外している場合即ち公職選挙法第十一条、第二百五十二条に列挙されている事由の場合はすべて裁判所の裁判が前提となつており、この点に関し紛糾を生ずるおそれのないことから明かである。なお、本件のような場合公職選挙法所定の選挙に関する争訟の提起があつたところで、地方自治法第百二十八条の規定は同法第百二十七条により議員の職を失う限り、その適用を排除されるものであると解せられ、争訟中議員失職の事実があれば、その争訟はその対象を失うだけのことである。そして被選挙権を有しないことが当選後に発見された場合、その者がそれまで事実上議員としてした行為が効力がなかつたことになる点で、議会の運営第三者の保護等からみて多少の影響があるものとは考えられるが、前叙のとおり議員資格の中被選挙権あることの重要性に鑑み右行為に何らかの効力を認める方がむしろ議会の運営により大きな悪影響を与えるものと解される。原告のうけた罰金刑の言渡が昭和二十七年四月二十八日大赦によつてその効力を失つたことは前示のとおり当事者間に争ないが前説明のとおり原告はそれ以前に罰金刑の裁判が確定することにより被選挙権を有しなくなり議員の職を失つており、これは恩赦法第十一条にいわゆる「既成の効果」に外ならないから、大赦は右失職に何の影響をも与えるものではないのである。最後に原告の五の主張について一言する。選挙における投票が国民主権の重要な発動形式であることはまことに原告主張の通りであつて、さればこそ公職選挙法において選挙の拠るべき準則を定め、選挙の公平と真正を確保するためこれを害する又は害する恐ある行為を選挙犯罪とし、選挙犯罪によつて処刑せられた者は或る場合において一定の期間選挙権及び被選挙権を有せざるものとしている。而して原告は正にこの場合に該当するものである。原告が被選挙権を有しないことが一般に知れ渡つていたら、誰が原告に投票したであろうか。

要するに原告は議員とはならなかつたものである。原告の主張は上叙の判断と異る見解であるか或は原告独自の見解であつて採用することができない。

いずれにせよ原告の請求は棄却すべきものであるから、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十五条、第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 奥田嘉治 黒沢信夫 柳川俊一)

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